人生で決して忘れることができない日。2006年10月30日は、僕にとってその日だった。
愛する人の手術日だった。
10月2日に病状が発覚して以来、いつどこにいようとも、何をしていようとも、この人の心情や待ち受けている運命に思いをめぐらせてしまう。「何も変わらず、直毅は今まで通り普通にやればいい」、その指示を忠実に守るように努めたけれど、到底無理だった。街を歩いていても、電車に乗っていても、涙を止めようがない。ただ悲しみはいつしか諦めに変わり、変えようのない残酷な事実を受け入れざるを得ないことに気付かされる。神を信じない僕は何にすがれば良いのか分からなかったけれど、祈るほかないことくらいは見当が付いた。
9時半頃から約6時間に渡る手術。15時29分、オフィスにいる僕に連絡が入った。「『予定通りの術式で終わりました。良かったですね。』と言われました」。闇が一瞬晴れた気分になった。
先輩に支えられた日だった。
奇しくもこの日は僕が1年強取り組んでいたプロジェクトの公表日のはずだった。ところが急遽不測の事態が発生して、公表を中止せざるを得なくなった。外出先で困惑する僕を、僕がお願いしたわけでもないのに、誰に指示されたわけでもないのに、チームの先輩3人が全力でサポートしてくれた。関係者への的確な指示、フォローアップ。オフィスに戻った頃には、次の方向性をすぐ示すことができる程に状況整備がなされていた。他人を蹴落として自分がのし上がっていくことが一般的な金融業界で、稀有な出来事だ。心の底から応援してくれていることが分かって、涙が出そうになった。無知、無教養、不誠実、チームに対してこんな印象を持つことが時にある。でもこんな3人の先輩がいる限り、僕は頑張っていけると思った。
明日、2006年10月31日からまた毎日走っていける。2006年10月30日は、そう心に誓った1日だった。
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